小麦な生活

スワンベーカリー

神奈川県伊勢原市

水色の波の上にSWANの文字が並ぶお店の看板がとてもかわいい。 伊勢原市に「障がいを持つ方が元気に働いている小さなパン屋さん」があると聞き訪ねて行った。 そのお店、スワンベーカリー湘南店は、小田急線の伊勢原駅から歩いて10分くらいの所にあった。 大きなガラス窓から日が差し込む明るいお店で、イートインスペースもある。スワンの模様の磨りガラス越しに見える工房でスタッフが働いている。 みなさんの顔が活き活きしていい表情をしているというのが第一印象だ。 スワンベーカリーは、ヤマト福祉財団とヤマト運輸が障がいを持つ方の自立と社会参加を支援するために展開しているパン屋さんのフランチャイズチェーン。 直営店とチェーン店があり、湘南店はチェーン店だ。 スワンベーカリー湘南店店長の加藤裕子さんにお話を伺った。

棚に並ぶパンは、食パン、ハード系のパン、調理パン、デニッシュなど数十種類。 「パン生地は冷凍のものを使っています。解凍して再発酵させてそのまま焼くものと、 解凍して成形して再発酵させて焼くものがあるんですよ」冷凍パン生地は本部の(株)スワンと提携しているタカギベーカーリーからレシピと共に送られてくる。 生地以外のクリームなどの素材もリストの中から選んで注文できるそうだ。冷凍パン生地を使うことによって作業を効率化し、バラエティ豊かなパンを提供することが可能になっている。  

レシピはスワンベーカリーの共通レシピが主であるが、湘南店では地域のニーズに応えてオリジナルレシピも提供している。 例えば、小学生とのコラボで生まれた「大山マーボー揚げパン」。伊勢原名産の大山豆腐を使ったピリリと辛い揚げパンだ。 「いせはら豚(とん)ティーヤ」は、伊勢原市商工会が地元のみなさんと開発した新名物で、 伝統食である味噌味の豚肉(高座豚)と野菜をトルティーヤで包んだもの。 伊勢原では商店街が中心となって地元を盛り上げる「いせはら樂市樂座」などの活動が盛んだ。 商店街のファッション・ショーも開いているんですよと加藤さんは楽しそうに話してくれた。 小麦以外の材料も、川越のサツマイモ、狭山のお茶など、できるだけ生産者の顔が見える食材を使っている。 人気の「お味噌のパン」は特別栽培の国産大豆と玄米を使った埼玉県秩父の味噌メーカーの味噌を使っている。 北海道の小麦生産者をはじめ、思いを同じくする人々とネットワークして、人と人のつながりを基盤に地元・国産の食材を使ったパンづくりをしていきたいという。

このほか、地元名産の柿などの季節のくだものをデニッシュに使ったり、ハンバーグを手作りしたり、地元産の農産物を使った湘南店ならではの特色あるパンをつくっている。

このほか、地元名産の柿などの季節のくだものをデニッシュに使ったり、ハンバーグを手作りしたり、 地元産の農産物を使った湘南店ならではの特色あるパンをつくっている。 加藤さんは、障がいを持つスタッフにも、パンづくりだけでなく店内のレジや近隣の高校などでの出張販売をまかせたり、 JAの直売所で買い物を頼むなど、町の人々と接する機会をできるだけつくるようにしている。最近では近所の人々がスワンベーカリーの存在を理解してくれるようになった。 お話を伺っている間にも、ジャム工房の方がかわいい編みかごに入れたジャムを納品にきたり、障がいを持つ青年がお母さんと訪れたり、常連のお客さんがお店を訪れ、明るい笑い声が店内に響いていた。 最後にお店で働いていたスタッフに将来の夢をたずねてみた。 「カフェスペースを大きくして充実させ、地元の人が集まる場所にしたい」「お昼にパンと合うスープやお料理を出したり、ランチボックスを提供して、近所の主婦などに来てもらいたい」と笑顔で答えてくれた。

「町の小さなパン屋さん」のキーワード

町に雇用を生むパン屋さん

スワンベーカリーは社会的弱者の自立と社会参加を大手企業がノウハウと資金を投入して支援し、地域の有志が運営しているよい事例である。

冷凍パン生地

スワンベーカリーのパンづくりで活躍しているのが冷凍パン生地。効率化を図るとともに、障がい者作業をカバーできる素材として奏功している。 腕力のない女性や高齢者のパンづくりにも活用できるかもしれない。

*参考

株式会社スワン
株式会社スワンは、ヤマト福祉財団とヤマト運輸を中心に設立された株式会社。 障がいを持つ方の自立と社会参加を支援するためにパン製造販売を行うフランチャイズチェーンを展開している。 働いている障がい者の一カ月の給料は一万円以下。 こういった現状から脱却するために施設職員に経営ノウハウを伝授し、一般消費者をターゲットとした製品を販売する「焼きたてのおいしいパン」店構想を展開。 1998年第1号店スワンベーカリー銀座店がオープン、現在直営店3店、チェーン店は25店。タカキベーカリーの協力を得て、同社が独自に開発した冷凍パン生地を使っている。(www.swanbakery.jp/を参考に記述)

スワンベーカリー 湘南店
湘南店店長の加藤裕子さんは養護学校で30年以上先生をしていた経験を活かし、養護学校の同僚や生徒の保護者と一緒に起業。2006年に運営会社(株)空とぶ亀を設立し、このお店をオープンした。加藤さんはスタッフに自信と責任を持って働いてもらうため株式会社という企業形態を選択した。障がい者6名。健常者10人が働いている。仕事は製造と販売に分けられているが販売は全員が交代で担当し、できるだけ多様な作業をさせるように日々のシフトを工夫している。店内販売のほか3つの高校、障がい者施設などに出向き、パンを販売している。このほか市役所の食堂や近所の工場の売店、商店などにパンを置かせてもらう委託販売も展開している。 「儲けだけではない人のつながり」を大切にしているという加藤さんであるが、経営を考えると福祉を実践する企業として補助を受けたほうがよいかと考えたりもするという。

スワンベーカリー湘南店 神奈川県伊勢原市田中256-1
0463-91-3570
http://www.swanbakery.jp/